『ボブ・ディラン ノー・ディレクション・ホーム』

マーティン・スコセッシ作『ボブ・ディラン ノー・ディレクション・ホーム』をDVDで鑑賞。ボブ・ディランは思った以上に自己を神秘化するのが好きな人のように思えた。神話化されてきた初期のディラン像を、映画はより多面的に掘り下げ、その実態を明らかにしようとしているわけだが、インタビューを受ける現在の本人は、それなりに質問に答えながらも、どこか「今からならどうとでも解釈できる。それに過ぎたことじゃないか」というような感じなのだ。もちろんまったく不誠実ではないのだが、多くの人はどこか物足りないと感じるのではないだろうか。いや、このように安易な感情移入を許さないところがディランらしいのかもしれない。長い作品だが、若いディランの潔癖で神経質で多感な様子が豊富な映像で見ることができてすばらしい。「プロテストソング」の歌い手として一躍注目を浴びたときもまったく気取りがなく、その後すぐにも政治的なイメージとレッテルを貼られるのを拒絶する転回の速さ、レコーディングで「Like a Rolling Stone」のオルガンのパートがほんの少し遅れているのを面白がり録りなおさなかったというエピソードなどが印象に残った。

ボブ・ディラン ノー・ディレクション・ホーム [DVD]

ボブ・ディラン ノー・ディレクション・ホーム [DVD]