『エドワード・サイード OUT OF PLACE』
佐藤真監督のドキュメンタリーロードムービー『エドワード・サイード OUT OF PLACE』を見る。
映画は、2003年に他界したパレスティナ出身の知識人エドワード・サイードの思索と痕跡を追う。サイードを知る人々のインタビューを交えながら、パレスティナ・レバノン・カイロでのサイードの足跡を紹介していく構成で、家族のモノクロ8ミリフィルムに残された、子ども姿のサイードがでてきたりもする。そういったことに加えて、サイードが問題にしようとした他者との共生が、いまのイスラエル・パレスティナの現状においてどのように考えうるのか、という問いかけへと映画はさそわれていく。
レバノンのサイード一家のかつての別荘は荒れていて、シリア人の出稼ぎ労働者の若者たちが住んでいた。この青年らの純朴でつつましい笑顔が非常に印象的。サイードのことは知らず、説明されて「非常に光栄におもう」と答えるが、サイードのことをパレスティナの闘士だと誤解した様子で、「知識人で、ペンで戦ったのだ」と補足されると、「ペンで戦うジハードも、命を懸けたジハードもいっしょ。(…)いや、いっしょとは言えないけれど、書くのもジハードの一つの形」と素直に撮影スタッフにはにかみながら応じるのだった。
軍に完全封鎖されたレバノン領内のパレスティナ難民キャンプにもカメラは潜入している。そこは外の検問でのものものしさとは少し違って、土地を追われたパレスティナ人たちが、身を寄せ合って生きている様子が親しげな距離で描かれている。監督も本に書いているが「キャンプ」というと、テントのようなところで生活しているイメージが浮かぶがそうではない。すでに50年以上もそこで暮らしているのだから、貧しいながら家を作り数十人の大家族が一つ屋根の下に生活している。おばあさんがパレスティナの思い出を昨日のことのように語るが、彼女がその故郷にいたのはまだ10代のころだったことになる。おじいさんが猫の尾をひっぱったりしていたずらをし、「また、おじいちゃんたら」という感じで家族からあしらわれているのも面白い。一家の40代ぐらいの主人はコーヒーを作ってそれをキャンプ内で売り、家族の生活を支えている。かれは封鎖されているキャンプから6年以上も出たことがない、という。
またイスラエル内のユダヤ人も映画は取材をしている。ルーマニアからイスラエル建国以前に入植し、農村共同体のキブツを形成した一家。ヨーロッパに残っていた親族のほとんどがナチスの収容所で殺され、残ったのは2人だけだったという。荒涼としてなにもなかった土地を開拓するのは並みのことではなかっただろう、という気はする。うろこのない魚は食べないが、チョウザメを養殖している。そこから取れるキャビアをヨーロッパや日本に輸出しているという。また、別の家族。シリアから入植した敬虔なユダヤ教徒の年配女性は、故郷のアラブ文化の影響を受けた食事などを大切にしている。故郷ではユダヤ人地区は焼打ちにあったが、しかしそのことをうらむことはない。むしろユダヤとアラブはごくふつうに共存していたことを娘や息子たちに語っている。
とりとめがないが、そういうところが印象に残る映画だった。問題をとらえる切り口にやや鋭さを欠いているという批判もあるのかもしれないが、しかしパレスティナ人・イスラエル人の生活の様子が垣間見られるところは、よかった。サイード『パレスティナ問題』を読み始めている。
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