ケン・ローチのことよりも

ケン・ローチ監督作『麦の穂をゆらす風』をDVDで見る。

1920年アイルランドでの大英帝国にたいする武装闘争・独立運動を描いているので、どうやらイギリスでは「反英国的」という批判もあったようだ。しかし英国軍や武装警察の描き方が、アイルランド人への民族差別や残酷な拷問のシーンもあるのだけど、どこか穏便なあつかいであり、その英国の悪を徹底的に問題化しない点で、私の印象では、むしろ「英国擁護的」と思えるものだった。何を描くべきなのか、作り手のほうでしっかりした視点を獲得できていないことが、こういうぼやけた印象を与えるのだと思う。

一番よくないのは、アイルランドレジスタンスがあんまり魅力的でないことだろう。主人公がおさななじみの少年を裏切りのかどで制裁したり、恋人とその家族が英国の憲兵みたいなやつらに暴行をくわえられたり、兄たちのグループと対立して内戦の様相をていしたり、悲劇は山ほど描くわけだが、しかし人物たちにまったく深みがないせいで、これらの悲劇には通りいっぺんの説明のような平板さしか感じられない。最後は主人公が兄により銃殺されるのだけれど、互いの対立や葛藤がそれ自体お芝居めいて、印象としては、えらくあっさり殺すよな、と思ってしまう。それが残酷かというと、もちろん当時のそういう状況におかれた人々にとっては、残酷以外にありえないけれど、映画は、現在それを見ている人々に「きれいごと」としてそれを伝えてしまっているのではないか。辛口でなくそういう気がする。

ただし、現在多くの日本人が、かつて自分たちが帝国支配した当時の歴史事実に対して、ケン・ローチほどの省察もないのだから、この映画への批判はそういう現実を問題にしてからいうべきかもしれない。はたして、日本のだれが朝鮮半島での「三・一独立運動」を描きえるだろうか?