『レイ/Ray』を見て『ウォーク・ザ・ライン』を思い出す

レイ・チャールズの半生を描いた映画『レイ/Ray』をDVDを借りて見る。レイを演じるジェレミー・フォックスがまずまずの熱演ぶり。公民権運動に呼応して黒人差別に反対し自身の公演を取りやめたため、出身地であるジョージア州から一時出入り禁止にされたが、後に名誉回復。代表曲の『Georgia On My Mind (わが心のジョージア)』が州歌になる、というようなエピソードがちょっと面白かった。

しかし映画全体としては、あまり黒人問題・ルーツ音楽のようなことはいまひとつ前景化されていなかった。むしろ、目が見えないハンディキャップを負いながら、若い頃から音楽では天分の才を遺憾なく発揮し、女性関係もそれなりに派手で、ビジネスも独特の勘の良さで成功を収めるというエンターテイメント的なつくりに重点が置かれていた。もちろんそれでいいと思うのだが、生い立ちにまつわる出来事(幼い頃の弟の事故死、6歳での失明、母親との貧しい生活、母親との離別)を「トラウマ」のように描くところが、ややありがちで面白さをそいでいるのでは、と感じた。

それにしても、なぜミュージシャンの伝記映画は「トラウマ」がつき物なのだろう。というのは、ジョニー・キャッシュを描いた『ウォーク・ザ・ライン/君につづく道』も、「トラウマ」については、ほぼ同じ物語構成だからだ。まあ「トラウマ」の濫用は、今に始まったことでもなく、またなにもミュージシャンに限らないから、そう気にすることもないのだが。

ウォーク・ザ・ライン』では、ジューン・カーター(カントリーの草分けカーター・ファミリーのメイベルの娘)をリース・ウィザースプーンが演じていて、アカデミー賞などの受賞で評価を受けている。ジョニー・キャッシュ(ホアキン・フェニックス)とのエネルギーあふれるステージのシーンは、確かに非常によかった。