『占領ノート』書評 in 『ミフターフ』

パレスチナの平和を考える会」が定期的に発行している機関紙『ミフターフ』の最新号(Vol.23)が、発行されました。


特集は「ガザ虐殺と私たち」と題されています。

イスラエルによる激しい攻撃をうけるガザの人々の悲劇を伝えるパレスチナ人ジャーナリストの現地報告から始まって、イスラエルへの抗議・糾弾の声を上げた関西・東京・パリ・ロンドンなどの各地の緊急行動レポートを読むことができます。そのほか、パレスチナ問題にかんする最近の学習会や講演の感想や内容の報告、ISM(国際連帯運動)/ビルイン村反壁闘争に参加者の覆面対談、ボイコット運動に関する情報、連載やコラムなど、非常に盛りだくさんで、読み応え抜群です! この間のイスラエルのガザ侵攻に怒り、パレスチナ問題に関心を持たれた方には、とくに一読していただくことをお薦めいたします。詳しい目次や入手方法については、以下の「パレスチナの平和を考える会」のサイトをご覧ください。


パレスチナの平和を考える会 機関紙『ミフターフ』
http://www.palestine-forum.org/miftah/index.htm


それと、このVol.23号で『占領ノート』の書評(本の紹介ですね)を書かせていただきましたので、転載させていただきます。40年来続いている「占領」が、現在どのようにパレスチナを浸潤し、ズタズタにしてしまっているか、パレスチナを訪れたことのない人にも、理解する助けになる本だと思います。こちらの本も機会があれば、お読みになることをお薦めいたします。


『占領ノート 一ユダヤ人が見たパレスチナの生活』
エリック・アザン著 益岡賢訳
(現代企画室、2008年10月、税込1,575円)



 ユダヤ系フランス人の著者が、イスラエル軍事占領下のパレスチナ西岸にはいり、ナブルス・カルキリヤ・ヘブロンで暮らすパレスチナの人びとの様子を、この『ノート』に書きとめたのは、2006年の5月から6月。パレスチナ評議会選挙で、PLO主流派のファタハではなく、イスラム抵抗運動のハマスが圧勝して間もなくのころだった。

 1993年のオスロ合意以降も、イスラエルは自ら唱えた「和平」を無視して、西岸とガザの「占領」を継続し、むしろより一層の悪質なやり口とむき出しの暴力で、パレスチナ人への弾圧と排除と追放を続けてきた。だからハマスの勝利は、そんな空疎で侮辱的な「和平」にたいするパレスチナ民衆からの「No!」の表明といえよう。本書はこの事実にしっかりと目を向け、その背景にある彼らの日々の生活のありようを、曇りのない視線で描きだしている。

 西岸において著者が出会う人びとの苦境はさまざまである。売れるあてどなく木工場や石鹸工場の操業をつづけるものたち。人影のない旧市街で店を開けているパン屋や肉屋。自治政府が市民のレジスタンスから乖離していると指摘する元ナブルス市長。本来はファタハ支持だが今回はハマスに投票したという多くの声。国際機関の援助が打ち切られたため給料を数ヶ月もらっていない公務員。隣接する入植地のイスラエル人から、収穫物に火をつけられたり、汚水を垂れ流されたり、暴力を振われたりする町や村の人びと。イスラエル当局からの迫害にも屈せず学校を建てて、子どもたちへの教育を保障しようとする教師たち。刑務所にとらわれている両親に自分たちだけで面会に行かなければならない幼い兄妹。自爆攻撃を打診されたというだけで禁固20年の有罪判決を受けた若者。分離壁によって農地が壁の向こうに切り取られ、通行許可も得られず働くことができなくなった農家。入植者のための道路建設のせいで家屋が破壊され、土地が没収される人びと、……。

 どんどん困難な状況に追いやられ、途方にくれるしかないパレスチナの人たちの声を間近に聞き取っていく足取りのなかで、ときにイスラエルの不正義に怒りをあらわにしながらも、著者の記述は、あくまで淡々と客観的である。しかし、それがかえって〈分離壁+入植地+通行禁止+道路+軍事地域+検問所〉というイスラエルの軍官民複合の支配装置が、どのようにパレスチナの各地域をバラバラにし孤立させ、いかに「パレスチナ人の生活を不可能にしている」か、そのからくりを明瞭に伝えることになっている。“これはもはや「占領」でさえなく、パレスチナ人を追放し、その領土をイスラエルに奪い取る「併合」なのだ”と著者は、最後にきびしく告発している。

 昨年12月27日に開始された、ハマスの崩壊を狙ってのガザ空爆・地上軍侵攻によって、イスラエルはまたしても暴虐の一線を踏み越えた。今となっては、著者が2006年の時点で淡く抱いていた「かくも貴重な機会」(ハマスの勝利から開かれる、民衆のための政治復権の可能性)は、むなしくついえたようにも見える。とはいえ、「和平」や「停戦」と呼ばれる状況でさえ、イスラエルの「戦争機械」はパレスチナの人びとを押しつぶし続けてきたのであり、本書は、一連の「戦争」と「停戦」が地続きのものであることをあらためて認識させるものである。今後、イスラエルによるアパルトヘイト政策や民族浄化を糾弾し、パレスチナ問題の根本的な解決を求めていくためにも、読んでおきたい重要な資料といえるだろう。